「かんじのおてほん」に込めた、もうひとつのねらい
漢字ドリルというと、書き順を見ながら、同じ字を何度もなぞる・書き写す——という光景を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。もちろん、正しい書き順や字形を体で覚えることは大切です。ですが、「ことばブリッジ」の家庭学習用教材「かんじのおてほん」では、それだけで終わらせないことを、あえて意識しています。
漢字は、単体の記号として覚えるものではなく、意味を持ち、文の中で使われて初めて生きてくることばです。書けるようになった漢字が、意味も分からないまま、使い方も分からないままでは、「まなびことば」としての力にはつながっていきません。
そこで「かんじのおてほん」では、書き順や部首の説明に加えて、保護者の方がお子さんに説明する際の手がかりとなるよう「意味」の説明を添え、実際の使い方を示す複数の例文もあわせて示すようにしています。しかも例文は、日常のくだけた話し言葉ではなく、少し丁寧に組み立てられた「まなびことば」の文型で書くようにしています。
この詩を読んだら、公園にいるような気持ちになった。
これは、単に「詩」という字が使われた文というだけでなく、気持ちの動きを一文の中でつなげて表現する、という「まなびことば」らしい文の組み立て方そのものを、例文を通じてさりげなく示しています。書き取りの練習をしながら、実は文の作り方にも触れている、という二重の狙いがここにはあります。
この「意味」の説明は、実はお子さん自身がすらすら読んで理解できることを前提には書いていません。むしろ、なぞり書きをしている数分間、保護者の方がそばで読んで、「この詩、どんな感じだと思う?」「谷川俊太郎さんの詩、読んだことある?」と、ご自分の言葉でひとこと話しかけるための手引きとして使っていただくことを想定しています。
漢字の宿題が、一人で黙々とこなす作業から、親子でことばについて少し会話をする時間に変わる——そんな数分間の積み重ねが、海外の生活の中では特に貴重な、日本語に触れる時間になります。
各ページの下には、「あせらず、1日に数マスずつでもかまいません」という一言を添えています。これは決して社交辞令ではなく、間違いを厳しく直したり、無理に全部を一度にやらせたりするよりも、正しい形に日常的に触れながら、お子さん自身のペースで少しずつ身につけていく方が、結果として力になるという考え方に基づいています。
「かんじのおてほん」が目指しているのは、書ける漢字を1字でも増やすことだけではなく、その漢字が持つ意味やことばの使い方を、親子の会話を通じて、少しずつ共有していただくことです。